「大奮闘!!」の続き(ネコ娘視点バージョン)です。


身体が、熱い。

浜辺の外れの岩場で1人佇んで
私はついさっき経験した事を思い出していた。

初めは、軽い気持ちだった。


思い思いに海で楽しむ仲間を尻目に
案の定、鬼太郎はパラソルの下で1人ゴロゴロしていた。

話し掛けるネタは何でも良かった。
折角鬼太郎と海に来たのだ。
少しでも鬼太郎と一緒に居たかった。

私は頭の中で幾つかのシミュレーションをする。


『鬼太郎、一緒に泳ご!』
『僕はいいよ、疲れるし。』

『鬼太郎、散歩に行こうよ!』
『僕はいいよ、めんどくさいし。』

『鬼太郎、私もここに居ていい?』
『いいよ、別に。』



「・・・・・・・・・・」

ダメだ、こりゃ。
私はもっとこう、鬼太郎と、鬼太郎と・・・

さしたる思惑も無いまま私は鬼太郎が寝そべる
シートに上がりこんだ。

「あのね、鬼太郎・・・・。
オイル、塗ってくれない・・・・?」

自分でもビックリ。

私の口は勝手に大胆な事を喋っていた。

「ろくちゃんは鷲尾さんとどっかに行っちゃって・・・・。

だから、鬼太郎にしか頼めなくて・・・・。」

私はしどろもどろになった。
どうしよ?変に思われてないかなぁ・・

「・・・・仕方ないなぁ・・・。」

私の心配をよそに、鬼太郎は渋々といった感じで起き上がる。

「ありがとう。」

私はうつ伏せになって、首の後ろの紐を解いた。
水着から開放された胸がぷるりと震えた。


(失敗した。)


元々、背中が大きく開いてるワンピースなんだから
首の紐を解く事は無かったのだ。
いつしか、背中にオイルを塗って貰う時は
そうするものだと決め付けていた。

うわ、すっごく恥ずかしい・・・・
でも、事ここに至っては、鬼太郎に任せるしかない。
そう開き直っては見たものの、
いつまで経っても私の背中に鬼太郎の手は
やってこなかった。

「・・・鬼太郎・・・?」

私は鬼太郎を見上げる。

「あっ・・ごめん!!」

「??」

どうしてここで鬼太郎が謝るんだろ?
お願いしてるのは私なのに。

もしかして、鬼太郎も緊張してるのだろうか?

まさか、ね。
「ひゃう」

突然、鬼太郎の手に触れられた私の身体は、
主の意思と関係無く、ビクリと反応した。

(声、出ちゃった・・・)

ヤバい、恥ずかしすぎる。

オイルを盛った鬼太郎の手が、私の背中を
何度も往復する。

今まで鬼太郎と手を繋いだ事は何度もある。
敵妖怪から私を庇って抱き飛んでくれた事も。

でもこの状況は。

どうしよ、どうしよ、どうしよ・・・

そして、鬼太郎の手が私の太股に伸びた。

「うぅ・・」

もう、ダメ。
私の頭の中は真っ白になった。


その時だった。


「なんだい、なんだい!鬼太郎!アタイにも塗っとくれよ!」

突然降ってきた声に咄嗟に意識を戻された。

「ア・・・アマビエ・・・・!!」

「ん?どうかしたのかい??」

「いっ・・・いや、なんでもないよ!!」

「そ、そう!なんでもないの!!きっ・・・鬼太郎、ありがとう!!」

「あ、いや、どういたしまして・・・。」

不自然に慌てる私達を、アマビエは頭にはてなマークを浮かべて見ていた。

「じゃ、じゃあ、あたしは泳いでくるわね!」

「あ、うん・・・・。」

私は紐を結び直し、海へと駆けていった。

「あ!ネコ娘〜!」



後ろからアマビエの声がきこえたけど、
構わず私は走り続けてこの岩場までやって来た。

「ふぅ・・」

あービックリした。

でも。

あの時鬼太郎は何を考えていたのだろう?
私と同じ事を考えていたのかしら?
鬼太郎が望んでいたら、
私は彼の行動を全て受け入れていただろう。

くすっ。

「・・・そんなワケ無いか」

あの鈍ちんがまさか、ね。

でも・・・
いつもの鬼太郎じゃなかったような・・・・??

「うーん・・・」

まぁ、今更考えても仕方無い。
それに私達には沢山時間があるんだから。

「喉、渇いちゃった」

身体が凄く火照っているせいで、喉がカラカラだった。
この火照りは暑さのせいだけではないだろう。

「鬼太郎・・・」


そうだ、ジュース買っていこ。鬼太郎の分も。

私は海の家でジュースを2本買って
鬼太郎が居る場所へ戻った。



あれ?

鬼太郎の隣りに、誰か居る。

・・・・・・・・

????

まさか。

いや、彼女が居るワケ無い。
こんな炎天下の浜辺に。

でも。

あの後ろで束ねた長い髪。
透き通るような青白い肌。
遠目でもわかる鬼太郎が好きそうな身体付き。

やっぱり!

「葵ちゃんっ!」

「あら、ネコ娘」

目下の所、色んな意味で
私の女の子としてのライバル(?)雪女の葵ちゃんだった。

「あら、じゃないわよ
どうしてこんな所に居るの?貴女、雪女でしょ!?」

「細かい事は気にしない。今日、海水浴だって聞いたから、
ちょっと鬼太郎にカキ氷を差し入れにね♪」

「ネコ娘、雪女のカキ氷、とっても美味しいよ。
君も食べるかい?」


ぷちん。


「き〜〜〜〜た〜〜〜〜ろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

私のさっきまでのドキドキ、どうしてくれるのよーーー!!!








-数日後のゲゲゲの森-


「よぅ、海はどうだった?鬼太郎ちゃんっ」

海水浴には参加しなかったねずみ男が鬼太郎に声を掛けた。

ぽんっ

「いたっっっ!よせよ、ねずみ男」

背中を走る激痛に鬼太郎は身を捩らせた。

「おっ、何でぇ何でぇ。
天下の鬼太郎様ともあろうお方が、日焼けくらいで情けねぇ」

「うるさいなぁ」

「お前、オイル付けなかっただろ?
今ならオレでもお前を倒せそうだな?」

そう言いながら尚も背中を触ろうとするねずみ男を
鬼太郎は身を翻して避け、まるで敵妖怪と対峙するように身構えた。

「へへへっ。まぁせいぜいお大事にな。
ネコ娘に薬でも塗って貰いな」

「ネコ娘・・いや・・それは・・・」

「今更照れてる場合かよ。じゃあな」

これ以上ふざけて本気で怒らせては大変と
鬼太郎の最後の呟きにはさほど気にも留めず
ねずみ男はそそくさとゲゲゲの森を後にした。

しかし、ねずみ男は知らなかった。



鬼太郎の皮膚は照りつける海辺の太陽にでは無くて
無数のひっかき傷で痛めつけられていた事を。


-END-

update:2009.8/22

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