説火さんから相互リンク記念を頂きました!(≧▽≦)


「おひめさま」

「大変だよ大変だよ!キタロー」
そう叫びながらゲゲゲハウスに飛び込んで来たのはピンク色の髪を持った人魚ー
ーアマビエだ。
彼女の“大変”は彼女の中だけの“大変”が多々ある事から、今回もその類かと
思いどうしたんだい?とのんびりと聞いた。
その態度に怒るわけでもなく“大変なんだよ”と続けられ、今回は本当に“大変
”なのかもしれないと聞く体勢を整えた鬼太郎に、アマビエが叫ぶ。

「ネコ娘が“おひめさま”になっちゃったんだよ!!」

「…はぃ?」

鬼太郎の脳裏にはドレスを着て王冠を被ったネコ娘の姿が浮かんだ。


早く早くと手を引っ張られ、半ば転げるようにして砂掛けの長屋の前まで来ると
、長椅子の前には砂掛け、子泣き、カワウソ、呼子が。そして長椅子にはろくろ
首とネコ娘がいた。
「おや鬼太郎、おまえも来たのかい?」
どこか渋い声の砂掛けに声を掛けられる。
「アタイが連れて来たんだよ!」
それを鬼太郎が応える前に、誇らしげにアマビエが答えた。
「ネコ娘が“お姫様”になったって聞いたんだけど…?」
皆に囲まれた中心にいるため良くは見えないが…想像していたドレス姿等ではな
く、いつもの赤いジャンバースカートを着ているようだ。
「“お姫様”?…ああ“ものもらい”の事じゃな」
「…ものもらい?」
言われた単語の意味は全く違うもののように思えるのだが。
「熊本じゃそう呼ぶんだってよ」
カワウソが教えてくれたのを面白い呼び方をすなと思ったがそれだけだ。…それ
よりも。
「大丈夫かい、ネコ娘?」
皆に囲まれているせいで、いまだ姿の見えないネコ娘に声を掛ける。
さっきから一言も声を発していないのが気に掛かる。もしかしたら声を出せない
ほど痛いのかもしれない。
自分が近寄るのをどこか牽制しているかの様な位置にいる呼子と子泣きを押し退
けるようにして前に立ち、もう一度声を掛ける。
一瞬、ビクリとネコ娘の身が竦む。まるで怯えるかのようなその反応に…、チリ
リとした痛みが胸を掠めた。
「うっ、うん。大丈夫!おばばから薬も貰ったし、2〜3日、長くても一週間くら
いで治るって!」
声には若干の震えが混じっており、早口でまくしたてられたソレにいつもの彼女
らしさを感じられない。
何よりずっと俯いたままで顔を上げようとしないのだーー先ほどから一度も。
「ネコ娘なら心配いらないさ、すぐに良くなる」
子泣きがズイッと、鬼太郎とネコ娘の間に割り込むようにして言えば「そうだよ
鬼太郎…」と呼子まで鬼太郎のちゃんちゃんこを引っ張って注意を逸らそうとす
る。
「でも…不便じゃないのかい?」
片目が見えなければ何をするにも不便だろう。
「大丈夫!治るまでろくちゃんが泊めてくれるから!」
「そうそう!ネコちゃんのお世話は私に任せて!」
ドンッと、自分の胸を叩いて請け負うろくろ首の仕草も若干のぎこちなさを含ん
でいる。…なんとなく、皆いつもと様子が違う。
まるで自分とネコ娘を遠ざけようとでもしているかのようだ。そしてそれをネコ
娘も望んでいる。
思い浮かんだ考えに胸の中でもやもやしたものが広がっていく。
「本当に、だいじょうぶ?」
否定したくてもう一度声を掛けたのに…大丈夫としか返ってこない。
ーー相変わらず顔を上げもせずに。

胸の中を黒いものが過っていく。
「じゃあなんで…」
ーーかおをみせてくれないの。
浮かんだ言葉を理性で口の中に留める。
ネコ娘にこんな…、拒絶するかのような態度をとられるなんて、初めてだ。
「それより、せっかく来たんじゃ。どうじゃ、将棋でもやらんか鬼太郎?」
「あっ、ずるいぞおじじ」
「そうだよ鬼太郎さん、僕達と遊ぼうよ!」
「いや…僕は…」
3人の誘いの言葉も右から左に通り抜けて、意識はネコ娘へと向く。
「そうしたら鬼太郎?」
促すような言葉を掛けたのはネコ娘で、その一言に黒いものともやもやが交ざり
あい無性に腹が立った。
「じゃあそうしようかな…。子泣き、将棋はまた今度にしとくよ。
カワウソ、呼子。行こう」
内心の苛立ちを上手に隠し、この場から離れたくてカワウソと呼子の誘いにのっ
た。
少しの未練を残しながらも長屋から離れた。


ーーふぅっ。
鬼太郎の姿が見えなくなると、ネコ娘は安堵の溜め息を付いた。
「全く、ダメじゃないアマビエ!鬼太郎を呼んできちゃあ…!」
「なんでだい?アタイは良かれと思って…」
ろくろ首に責められ怒るアマビエを砂掛けが宥める。
「まあまあ、分かっておやりよ…」
「何をだい!?」
キッ、と砂掛けを睨み付けるアマビエに
「こんな顔、鬼太郎に見せられないよ〜」
にゃ〜と情けない声で鳴きながら、ようやくネコ娘は顔を上げた。
「あっ…」
その顔は右の瞼が腫れあがり、大きな瞳を半分ほど隠してしまっているし、白目
も赤く充血してしまっている。…なるほど、確かに鬼太郎には見せられない。
「…ゴメンよネコ娘」
ようやく意味の分かったアマビエは素直に謝った。
今までの勢いをどこに置いてきたのか…しゅんとしたアマビエにネコ娘は優しく
声を掛ける。
「もういいよ、心配してくれたんだよね。…ありがとうアマビエ」
ネコ娘が鬼太郎を好きだという事はこの場にいる誰もが知っている。
その恋しい人に“ものもらい”になった顔を見られたくないと思ったネコ娘の気
持ちを察し、皆が気遣ってくれた。
「皆もありがとう!」
「いいのよネコちゃん!恋する気持ちは私にだって分かるもの!」
ぎゅっとネコ娘の手を握ってろくろ首が言う。
「私だって、きっと鷲尾さんには見せたくないって思うわ!」
「ろくちゃん…」
と、女の友情を深める2人の横で、鬼太郎たちが向かった方を見ながら思う。
(…鬼太郎、少し様子が変じゃったが大丈夫かのう?)
将棋をしながらそれとなくフォローをしようと思っていた子泣きは、変な誤解を
していなければいいがと心配になった。


「おや鬼太郎。今日はどうしたんじゃ?」
「うん…ちょっとね…」
砂掛けの問いに歯切れ悪く答えながらチラチラと長屋の中を気にする素振りを見
せる鬼太郎に、ははぁ…と思う。
「ネコ娘ならバイトに行っておるぞ」
「えっ?目はもう大丈夫…じゃなくて、ぼっ、僕は別にネコ娘を訪ねて来たわけ
じゃなくて…」
否定よりも先にネコ娘を心配する言葉が先に出たことに満足しながら更に言葉を
重ねる。
「おや、そうかい…。一昨日も昨日も来たからてっきりネコ娘の事を心配して様
子を見にきたのかと…」
「うっ…」
図星を差されて言葉につまる。言い訳を口に出せるほどの冷静さは保てなかった

「ネコ娘…もう大丈夫なの?」
どこに不貞腐れた様に聞いてくる鬼太郎はいつもと違って年相応の少年に見える

「ああ、まだ完治はしておらんがだいぶ良くなったぞ」
「そう…」
相づちには全く力がこもってなかった。
その様子に心配になって「どうしたんじゃ」と聞いても「別に」としか返ってこ
ない。
「ネコ娘は…」
「うん?」
呟きは小さすぎて聞き取れなかった。聞き返そうとして口を開き掛けた時、明る
い少女の声がそれを遮った。
「たっだいまー!…あれ?鬼太郎?どうしたの?」
「ネコ娘…もう大丈夫なのかい?」
「うん、もう大丈夫!…心配かけてゴメンね鬼太郎」
どこか気が抜けた様な問い掛けに笑顔で…ついで申し訳なさそうに謝った。
ごく自然に正面に立ち、ごく自然に視線を合わせてくる少女からは自分を拒絶す
る様子はない。
(いつものネコ娘だ…)
その事に自分でも驚くほどの安心を得る。
「き、きたろう…」
目の前にいるネコ娘の頬に手を伸ばし、戸惑うように名を呼ばれて自分がしてい
ることに気付いたが、触れた手を離したくなくて…そのまま大きな瞳へと手を移
動させる。
「まだ少し、目が赤いね」
「まっ、まだ完全には治ってないから…」
その瞳に自分しか映っていないことに何故だか酷く満足して手を下ろした。
「そう。早く完治するといいね」
「うっ…、うん…」
ニッコリと笑えばネコ娘の顔がみるみる赤くなっていく。
「じゃあ、僕はそろそろ戻るから」
少女がしっかりと自分を見ている事を感じながら、鬼太郎はゲゲゲハウスへと戻
っていった。

「おっ、おいネコ娘…大丈夫か?」
「にゃ〜…」
背後では、赤い顔をしたまま硬直するネコ娘を心配した砂掛けの声がしていた。
END

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いかがでしたか!!
好きな人に酷い顔は見せられない乙女なネコちゃんと
彼女の心理を量れない鈍ちん鬼太郎の態度がたまりませんね(≧▽≦)9
この〜〜万年もやもやカップルめぇぇぇぇ(´д`;;;)
説火さん、素敵な作品、ありがとうございました!!!


update:2011.5/28

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