句録院さんから素敵なお年賀SSを頂きました(^∀^*人)



〈鏡開き〉
台所のネコ娘が真剣な表情で睨んでいるのは、鍋と一袋の小豆。
その様子を、妖怪アパートの住人が部屋の外からときおりそっと覗いていく。
「どうだい、まだ始めてないかい?」
「そうね。さすがに慎重になってるみたい。」
そんな外野のひそひそ話も聞こえていないのか、ネコ娘はなお微動だにしない。
本に書いてある調理手順は暗唱できるほど読み込んだ。あとはイメージ通りにするのみ、
とばかりに精神を集中している。
「問題はお汁粉がお菓子かどうかだね。」
「あ〜、飯は普通に作れるのにな。」
仲間たちが口々に言うのは、いつだったかのバレンタインの記憶があるせいだ。
「・・・鬼太郎、よく食ったよな。」
「バカだね!そこが鬼太郎なんじゃないか。」
「おばばや雪女の娘に教えてもらえば、って言ったんだけど絶対自分で作るんだって・・・
鬼太郎のことになると頑固なんだから。」
そう言って半ば諦めの溜息をつくろくろ首に皆が同意の頷きを返したとき、
パチンと手を打ち合わせる音が台所の沈黙を破り、それに続いて手際よく動き回る様子が伝わってくる。
仲間たちが一心に努力の良き結末を願うのは、彼女のためでありまた鬼太郎のためでもあった。
そんな祈り混じりの厳粛な厨房の空気は、やがておそるおそる鍋のふたを持ち上げたネコ娘が
空いた手をグッと力強く握り締めると共に一気に解けていた。
だが、「やったよ、みんな!」と戸口に向き直ったとき肘に当たった軽い感触と、
それに続くざっ、という音に再度振り返った先で、サラサラと鍋の中にこぼれ落ちる白い結晶が再び時間を止める。
その瞬間に動いていたのは、ただ約束の時間が迫っていることを告げる壁の時計の針のみであった。
「き、鬼太郎、お餅割っといてくれた?」
「うん、これでいいかい?」
部屋に入ってきたネコ娘の問いに、鬼太郎は適度に砕かれて焼き網に並べられた鏡餅を示す。
「ありがと。じゃ、ちょっと待っててね。」
持参した鍋を火にかけ、焼けてきた欠片からつまんでその中に落としていく。
それと並行してちゃぶ台の上に配られていく食器を目玉の親父も楽しみに眺めていたが、
ふとその中にさも甘そうなきんとんが乗っているのを目に止めて怪訝そうにネコ娘を見上げた。
「ネコ娘。こりゃ、汁粉の付け合せにしては妙じゃが・・・漬物ではないのか?」
「あ、あはは・・・ええと・・・うん、これでいいの。」
一瞬動きを止め、じっと汗を浮かべながらも笑って答えた意味を知るのはそれから間もなくのこと。
後日、横丁の一部で鬼太郎の評価がまた少し上がったが、その理由を知るものは多くなかったという。
Fin.

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如何でしたか?
大事な時におっちょこちょいを如何なく発揮するネコ娘と
それを優しく受け止める鬼太郎の関係が凄く甘酸っぱいですね^^
何だか凄くあの二人らしくて萌えました♪
句録院さん本当にありがとうございました!!(≧▽≦)


update:2011.1/14

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